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外国籍の家族が日本で急逝…相続手続きや海外資産の分け方を解説

日本で暮らす外国人の方が年々増える中で、「日本で家族が亡くなってしまった場合、相続手続きはどうなるのか?」という切実なご相談をいただく機会が多くなりました。

特に、日本に長く住んでいて家や貯金がある場合や、母国(海外)にも不動産などの資産を残している場合、日本の法律と母国の法律のどちらが適用されるのか、日本の裁判所は対応してくれるのかなど、複雑な問題が絡み合います。

この記事では、日本で暮らす外国人ファミリーに焦点を当て、もしもの時に知っておくべき「国際相続」の基本と手続きの流れについて、専門用語をできるだけ使わずに分かりやすく解説します。

1. ケーススタディ:日本で暮らすある外国人ファミリーの悩み

【家族の状況】

  • 被相続人(亡くなった方): Aさん(アジア圏の国籍・仮に「D国」籍とします。日本に15年以上在留し、永住者ビザを保有)

  • 家族: 妻と子ども2人(全員D国籍、日本に同居)

  • 背景: Aさんは日本国内で不慮の事故により急逝してしまいました。

  • 遺産の内容: 1. 日本国内の銀行口座と、日本で購入したマイホーム(不動産) 2. 事故の相手方に対する損害賠償請求権 3. D国(母国)に残してきた土地・建物

残された家族は、悲しみの中で相続手続きを進めようとしましたが、遺産の分け方について親族間で意見がまとまらず、話し合いがストップしてしまいました。

このような場合、家族は「日本の家庭裁判所」に調停(話し合いの仲介)や審判を申し立てることはできるのでしょうか。また、どこの国の法律をベースに話し合いを進めればよいのでしょうか。

2. 日本の家庭裁判所は話し合いを受け付けてくれる?(国際裁判管轄)

結論から言うと、今回のケースでは、日本の家庭裁判所に遺産分割の調停などを申し立てることが可能です。

法律の世界には「国際裁判管轄(こくさいさいばんかんかつ)」というルールがあります。これは、「どこの国の裁判所がこのトラブルを扱ってよいか」を決める基準です。

日本のルール(家事事件手続法など)では、原則として「相手方(他の相続人など)の住所が日本にあるとき」や、「亡くなった方(被相続人)の最後の住所が日本にあるとき」などには、日本の裁判所が事件を扱うことができると定められています。

今回のケースでは、亡くなったAさんも、残された家族も全員が日本に長く暮らし、生活の拠点を日本に置いていました。そのため、家族の国籍が日本以外であっても、日本の家庭裁判所が窓口となって話し合い(調停や審判)を進めることができます。

3. 「どこの国の法律」で遺産を分けるべき?(準拠法の決定)

次に問題となるのが、「どこの国のルール(法律)を使って遺産を分けるか」という点です。これを「準拠法(じゅんきょほう)」と呼びます。

日本の「法の適用に関する通則法」という法律によると、相続に関する基本ルールは「亡くなった人の本国法(国籍があった国の法律)」に従うことになっています。

したがって、今回のケースでは、原則として「D国の法律」に基づいて、誰が相続人になり、それぞれどれだけの割合(相続分)で分けるのかを決めることになります。

注意:国によって「遺産の分け方のルール」が異なる

ここで非常に重要なのが、国によって相続の考え方が大きく2つに分かれるという点です。

  • 相続統一主義(日本や多くの国): 遺産が「現金」であっても「土地(不動産)」であっても、すべて亡くなった人の本国法で一括して処理する考え方。

  • 相続分割主義(一部の国): 現金や預金(動産)は亡くなった人の本国法に従うが、土地や建物(不動産)については、「その不動産が建っている場所の国の法律」に従うという考え方。

もし、亡くなった方の母国(D国)が「相続分割主義」をとっている国の場合、日本にあるマイホームの相続については、不動産の所在地である「日本の法律」が適用されることになります。このように、国籍によって適用される法律のパズルが変わるため、事前の確認が不可欠です。

4. 事故の損害賠償金や海外の不動産はどう扱われる?

(1) 事故による損害賠償金の取り扱い

事故によって亡くなった場合、加害者や保険会社から支払われる「損害賠償金(慰謝料など)」を受け取る権利が発生します。この権利も遺産に含まれるのでしょうか。

日本の過去の法的判断(判例)を紐解くと、交通事故の損害賠償請求権は、相続財産そのものに含まれると考えられています。そして、その損害賠償のルール自体は、事故が発生した場所(今回の場合は日本)の法律(不法行為の準拠法)によって認められるケースが多いです。そのため、日本の法律に基づいて算出された賠償金を、相続人間で分け合うことになります。

(2) 母国(海外)に残してきた不動産の落とし穴

一番厄介なのが、母国(海外)にある土地や建物の扱いです。

日本の家庭裁判所は、遺産全体をどう分けるかという話し合いを進めることはできます。しかし、「海外にある不動産の権利を書き換える(名義変更する)手続き」に対して、日本の裁判所が直接命令を下すことは原則としてできません。

多くの国では、自国内にある不動産の名義変更や管理については、その国自身の裁判所や政府機関が専属的な権限(専属管轄)を持っていると定めているからです。

そのため、日本の家庭裁判所で遺産の分け方が決まったとしても、それを持って母国の役所に行き、スムーズに名義変更ができるかどうかは別の問題となります。最悪の場合、母国の現地でもう一度、現地のルールに則った相続手続き(現地の裁判所での手続きなど)をやり直さなければならないケースもあります。

5. 公的機関のデータから見る「外国人住民の相続」の現実

日本の出入国在留管理庁(入管庁)が発表している「在留外国人統計」によると、中長期在留者と特別永住者を合わせた外国人住民数は、令和5年末時点で341万8,629人となり、過去最高を更新し続けています。

これだけ多くの方が日本で生活しているということは、それだけ日本国内で資産(銀行口座、不動産、自動車など)を形成する外国人も増えているということです。日本に生活基盤がある以上、亡くなった後の相続手続きが「日本国内で発生する」ことは、決して珍しいことではありません。

また、法務省の戸籍住民関係の指針や民事局の通達においても、外国籍の方の身分変動(婚姻、出生、死亡)に関する日本国内での届出や、それに伴う証明書の取得方法などが細かく定められています。日本で人が亡くなった場合、国籍に関係なく、まずは7日以内に日本の市区町村役場へ「死亡届」を提出することが必須となっています。

6. 知っておきたい!国際相続のQ&A

Q1. 亡くなった主人の母国の法律(本国法)が分からない、または内容が複雑な場合はどうすればいいですか?

A1. 日本の裁判所や行政書士などの専門家が手続きを行う際、その国の法務省の資料や、駐日大使館の発行する法律証明、現地の法律原文を翻訳して調査します。 ただし、現地の法律(条文)を一般の方が自分で手に入れて日本語に翻訳するのは極めて困難です。この「本国法の調査」こそが国際相続の一番のハードルとなるため、国際法務に詳しい行政書士や弁護士への相談を強くお勧めします。

Q2. 家族全員が外国人(日本国籍なし)でも、日本の遺産に「日本の相続税」はかかりますか?

A2. はい、かかります。 日本の国税庁のルールでは、亡くなった方(被相続人)または財産を受け取る人(相続人)が日本に住所を持っている場合、国籍に関係なく、日本国内にある財産(および一定条件下の海外財産)に対して日本の相続税が課税されます。基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超える遺産がある場合は、死亡を知った日の翌日から10ヶ月以内に日本の税務署へ申告する必要があります。

Q3. 母国にいる親族(親や兄弟)と連絡が取れません。日本にいる家族だけで手続きを終わらせることはできますか?

A3. 原則としてできません。 亡くなった方の「本国法」で誰が相続人になるかが決まりますが、もし母国の親や兄弟も相続人に含まれる場合、その全員の同意(遺産分割協議書への署名やサイン証明など)がなければ、日本の銀行口座の解約や不動産の名義変更は進められません。行方が分からない場合は、現地の調査や、日本の裁判所を通じて「不在者財産管理人」のような特別な手続きを検討する必要があります。

7. まとめ:複雑な国際相続は専門家へご相談を

外国籍の方の相続手続きは、単に「財産を分ける」というだけでなく、以下のステップをクリアしなければなりません。

  1. 亡くなった方の国籍国の法律(本国法)を正確に調べる

  2. 日本の法律との間で、どちらが優先されるか(準拠法)を確認する

  3. 国内外の全ての相続人を特定し、海外から必要書類(出生証明書やサイン証明など)を取り寄せる

  4. 日本と海外、それぞれの不動産や資産に応じた適切な名義変更を行う

これらを残されたご家族だけで、しかも日本語の書類を作成しながら進めるのは大きな負担となります。

当事務所では、外国人の方のビザ申請(在留資格)だけでなく、こうした日本での生活に伴う国際法務・国際相続のご相談も承っております。もしもの時や、将来の資産管理に不安がある方は、まずは一度お気軽にご相談ください。

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