日本国内の人手不足を背景に、優秀な海外人材を採用する企業が急速に増えています。しかし、初めて外国人社員を受け入れる企業にとって、大きなハードルとなるのが「雇用契約の手続き」です。
「日本語の雇用契約書だけでサインをもらっても大丈夫?」 「英語での雇用契約書には何をどのように書けばいいのか?」 「出入国在留管理庁(入管)へのビザ(在留資格)申請では何をチェックされる?」
本記事では、日本の在留資格(ビザ)申請専門の行政書士が、外国人を雇用する際に必須となる「英文雇用契約書」の重要性や具体的な書き方、そしてトラブルを防ぐための実務上のポイントを、法律用語をわかりやすく噛み砕いて徹底解説します。具体例も交えて紹介しますので、ぜひ最後までご覧ください。
1. なぜ外国人雇用で「英語の雇用契約書」が必要なのか?
結論から言うと、日本の労働法では契約書を必ずしも外国語で作成する義務はありません。日本語の契約書であっても、お互いが合意して署名すれば法律上は有効です。
しかし、実務上は「外国人がしっかりと理解できる言語」での契約書作成が不可欠です。これには主に2つの大きな理由があります。
① 「知らなかった」による労働トラブルを防ぐため
日本語が不十分な外国人社員に対し、日本語だけの契約書でサインをさせると、後から「給与の仕組みが違った」「残業代が含まれているとは知らなかった」「休日について誤解していた」といった致命的なトラブルに発展しがちです。お互いの認識のズレをなくすために、共通言語である英語(または本人の母国語)での書面作成が推奨されます。
② 出入国在留管理庁(入管)へのビザ申請で有利になるため
外国人が日本で働くための在留資格(例えば「技術・人文知識・国際業務」など)を申請する際、入管に対して「適正な労働条件で契約が結ばれているか」を証明しなければなりません。入管法および法務省の指針でも、外国人本人に対する労働条件の明示は厳格に求められており、本人が理解できる言語の雇用契約書や労働条件通知書があることで、審査がスムーズに進む傾向があります。
2. 公的機関のデータから見る!労働条件明示の法的義務
ここで、政府や公的機関が発表している確かな情報を確認しておきましょう。
厚生労働省および出入国在留管理庁(入管)は、外国人労働者の適正な雇用環境を確保するため、「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針」を定めています。
【公的ソースに基づく重要ポイント】
労働条件の明示(労働基準法第15条): 賃金や労働時間、就業場所などの主要な労働条件は、労働契約の締結時に「書面」で交付しなければなりません。これは日本人・外国人を問わず一律の義務です。
理解できる言語での明示(厚生労働省指針): 厚生労働省のガイドラインでは、外国人労働者に対して労働条件を明示する際、「当該外国人労働者が理解できる言語を用いるなど配慮すること」と明確に規定されています。
入管審査でのチェック(出入国在留管理庁): 在留資格の許可基準として、「日本人と同等額以上の報酬を受けること」や「労働関係法令を遵守していること」が厳しく審査されます。契約書の内容に不備や法令違反があれば、ビザは不許可となります。
3. そのまま使える!英文雇用契約書のシミュレーションと構成
実務で使われる英文雇用契約書がどのような構造になっているか、企業と外国人社員の設定を使って、分かりやすく解説します。
【設定】
-
会社名: Global Tech Solutions株式会社(東京都港区)
-
社員名: マイケル・スミスさん(アメリカ国籍・ITエンジニア)
-
業務内容: システム開発および海外クライアント対応
通常、英文雇用契約書はA4用紙で2〜3ページ程度にまとめるのが一般的です。主な条項とその意味を噛み砕いて見ていきましょう。
条項の全体像(アジェンダ)
英文契約書では、各項目を「Article(第〇条)」という単位で区切っていきます。
Article 1: 労働条件の基本(Working Conditions)
ここでは、働く場所や具体的な仕事内容、勤務時間を明確にします。
-
業務内容(Content of service): 「システム開発業務およびこれに付随する業務」のように、ビザの該当範囲(技術・人文知識・国際業務など)に収まる内容を具体的に記載します。
-
就業場所(Workplace): 実際に勤務するオフィスの住所を書きます。リモートワークを併用する場合は、その旨も記載しておくと親切です。
-
勤務時間と休憩(Work hours / Break): 例えば「午前9時から午後6時まで(休憩1時間、実働8時間)」のように明記します。業務上の必要がある場合は、残業(時間外労働)をお願いすることがある旨も書き加えます。
-
休日(Holidays): 土日、祝日、年末年始など、会社が定める休日を明記します。
Article 2: 給与と手当(Wages)
お金に関する項目は最もトラブルが起きやすいため、非常に細かく記載します。
-
基本給(Monthly basic salary): 例えば「月給 450,000円(固定残業代〇時間分を含む)」などと具体的に日本円で記載します。
-
割増賃金(Extra wages): 残業(Overwork)、夜勤(Late-night labor)、休日出勤(Holiday labor)が発生した場合の割増率(日本の労働基準法に準拠した25%〜35%以上の率)を明記します。
-
交通費・各種手当(Transportation fee / Others): 通勤にかかる実費を支給するのか、上限はあるのかを記載します。
-
昇給・賞与(Revision of wages / Bonus): 昇給は年1回、実績に応じて検討する旨や、賞与(ボーナス)は会社の業績や本人の評価に基づいて支給の有無を決定する旨を記載します。
Article 3: 服務規律(Service regulations)
外国人社員が会社の一員として守るべきルールです。「会社の規則に従うこと」「お互いに尊重し合って誠実に働くこと」「健康に留意すること」などを分かりやすい英語で規定します。
Article 4: 秘密保持義務(Duty of confidentiality)
会社の顧客情報や技術的な秘密を、在職中はもちろん、退職した後も第三者に漏洩してはならないという重要な約束事です。
Article 5: 試用期間(Probationary employment period)
日本の多くの企業が入社当初に設けている「試用期間」についての条項です。通常は3ヶ月〜6ヶ月程度に設定されます。期間中に著しく勤務態度が悪かったり、重大な経歴詐称が発覚したりした場合には、契約を解除することがある旨を定めます。
Article 6: 退職と解雇(Resignation / Dismissal)
-
自己都合退職: 社員が自分の意思で辞めたい場合、「少なくとも2週間前(または1ヶ月前)までに書面で届け出ること」といった手続きを定めます。
-
解雇: 万が一、心身の重大な病気で業務に耐えられない場合や、会社の規則に何度も違反して改善の見込みがない場合など、やむを得ない事由で会社側から契約を終了せざるを得ない条件を記載します。
最後に、契約の成立を証明するために、契約締結日(Date)、会社名と代表者署名、社員本人のサイン(Signature)を添えて、同じものを2部作成し、お互いに1部ずつ保管します。
4. プロが教える!外国人雇用で失敗しないための実務のツボ
英文雇用契約書を作成する際、また入管へビザ申請を行う際に、行政書士の視点から特に注意すべきポイントを3つに絞ってお伝えします。
① 日本の労働法が最優先される
どれだけ英語で立派な契約書を作ったとしても、その内容が日本の労働基準法に違反していれば、その条項は無効になります。例えば、「残業代は一切支払わない」「有給休暇は与えない」といった記載は完全に違法です。英文雇用契約書は、必ず日本の労働法規に合致した内容で作成してください。
② 就業規則の英訳もセットで用意するのがベスト
契約書にはすべての細かいルールを書ききれません。そのため、契約書の中に「詳細は会社の就業規則(Service regulations)に従う」と記載しておくのが一般的です。しかし、肝心の就業規則が日本語しか用意されていないと、外国人社員がルールを理解できません。主要なパートだけでも英訳したものを用意し、いつでも閲覧できるようにしておくことで、社内の規律が守られやすくなります。
③ 入管への提出書類としての整合性
在留資格(ビザ)の申請時には、この雇用契約書の写しや、労働条件通知書を提出します。この際、「会社が作成した採用理由書の内容」や「本人の大学での専攻・職歴」と、契約書に書かれた「業務内容」が一貫していることが非常に重要です。ここがズレていると、入管から「不審な申請」とみなされ、追加資料の提出を求められたり、最悪の場合は不許可になったりするリスクが高まります。
5. これ知りたかった!外国人雇用QA(よくある質問)
Q1. 日本語の契約書と英文の契約書で、内容の解釈にズレがあった場合はどちらが優先されますか?
A1. 一般的には「日本語版を原本(優先)とする」という規定を契約書内に明記しておくことで、万が一の解釈トラブルを防ぐことができます。 翻訳のニュアンスの違いによって誤解が生じるのを防ぐため、英文契約書の末尾などに「本契約は日本語と英語で作成されましたが、解釈に相違がある場合は日本語版の表現が優先されます(In case of any discrepancy, the Japanese text shall prevail.)」という一文を入れておくのが実務上の定石です。これにより、日本の法律に基づいた正確な判断が可能になります。
Q2. 試用期間中(Probation period)であれば、いつでも簡単に解雇できるというのは本当ですか?
A2. いいえ、それは大きな誤解です。試用期間中であっても、正当かつ客観的に合理的な理由がなければ、会社側から一方的に解雇することは日本の法律上、非常に困難です。 労働基準法により、試用期間であっても14日を超えて雇用している場合は、通常の解雇と同様に30日前の予告または解雇予告手当の支払いが原則必要となります。また、「なんとなく仕事が合わない」という主観的な理由での解雇は認められません。能力不足を証明する客観的なデータや、会社側が指導・教育を行ったにもかかわらず改善されなかったという実績が必要です。安易な解雇は深刻な労働紛争に発展するため、必ず事前に社労士などの専門家へご相談ください。
Q3. 在留資格(ビザ)の申請が万が一「不許可」になってしまった場合、この雇用契約はどうなりますか?
A3. ビザが降りなかった場合に自動的に契約が失効するよう、契約書に「停止条件」または「解除条件」をあらかじめ盛り込んでおく必要があります。 外国人が日本で働くためには、法的に有効な在留資格が不可欠です。もしビザが不許可になったにもかかわらず契約が有効なままだと、会社は「働けない社員に対して給与支払いの義務を負う」といった最悪の事態になりかねません。これを防ぐため、「本契約は、社員が日本国政府より適法に就労可能な在留資格の許可を取得・維持することを条件として効力を生じます」といった条項(ビザ不許可による自動失効条項)を必ず入れておきましょう。
6. まとめ:確実な外国人雇用は、正しい契約書とビザ申請から
外国人の採用は、企業にとって新しい活力を生み出す素晴らしいチャンスです。しかし、文化や言語が異なるパートナーを迎え入れるからこそ、雇用のスタートラインである「雇用契約書」の作成には細心の注意を払わなければなりません。
素人判断でインターネット上の雛形をそのまま流用したり、入管の審査基準を無視した契約を結んでしまうと、ビザが不許可になるだけでなく、将来的に大きな労務トラブルを抱え込むことになります。
-
自社の労働条件が日本の法律に適合しているか不安
-
英文での雇用契約書や就業規則を正しく整備したい
-
入管へのビザ申請を一度で確実に成功させたい
このようにお悩みの採用担当者様は、ぜひ一度、日本の在留資格・ビザ専門の行政書士までお気軽にご相談ください。貴社のビジネスの発展と、外国人社員の安心な日本生活を、法務のプロとして全面的にサポートいたします。