「うっかり期限が過ぎてオーバーステイ(不法残留)になってしまった」「今のままでは日本にいられなくなるけれど、どうしても帰れない事情がある」といった悩みを抱えている方は少なくありません。本来、日本のルールを守れなかった場合は帰国しなければなりませんが、個別の事情を考慮して、法務大臣が特別に日本に留まることを認める制度があります。
それが「在留特別許可」です。
2024年(令和6年)6月からは法律も新しくなり、制度が少し変わりました。今回は、この「在留特別許可」とは一体どんなものなのか、どうすれば受けられるのかを、専門家の視点から分かりやすく噛み砕いて解説します。
1. 在留特別許可とは?(特別な「救済措置」)
通常、ビザの期限が切れたり、入管法に違反したりすると「退去強制(強制送還)」の手続きが進みます。しかし、日本に家族がいたり、人道的な理由でどうしても帰国が難しかったりする場合、法務大臣の裁量で「特別に日本にいていいですよ」と許可が出ることがあります。
これが「在留特別許可」です。あくまで「特別」なものであり、全員に与えられる権利ではないという点がポイントです。
令和6年からの大きな変更点
これまでは、入管に収容されたり出頭したりした後の「手続きの中」で判断されるのを待つしかありませんでした。しかし、新しい法律(2024年6月10日施行)では、本人から「在留特別許可をください」と申請できるようになりました。
ただし、すでに「日本から出ていきなさい」という命令(退去強制令書)が出てしまっている人は、この申請をすることはできません。タイミングが非常に重要になります。
2. どのような人が許可されやすい?(積極的な要素)
入管庁が公表している「ガイドライン」では、どのような事情があれば許可の方向に検討されやすいか(積極要素)が示されています。
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日本人の配偶者や子供がいる場合 日本で家族と安定して暮らしていることは、非常に強く考慮されます。特に「子供の利益」は重要視されます。日本で生まれ育ち、日本語しか話せない子供がいる場合などは、子供の教育環境を守るために親の在留が認められるケースが増えています。
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日本での生活が長く、地域社会に馴染んでいる場合 単に長く住んでいるだけでなく、学校や自治会、町内会などの活動を通じて、日本人や地域社会と深い関わりがあることもプラスの評価になります。
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人身取引の被害者である場合 自分の意思に反して不当に働かされていたり、支配されていたりした場合は、保護の観点から許可が検討されます。
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難民や、それに準ずる保護が必要な場合 母国に帰ると命の危険がある、あるいは紛争などで帰れない事情がある場合も考慮されます。
3. 逆に「不許可」になりやすい要因(消極的な要素)
一方で、ルールを軽視していると判断されると、許可を得るのは難しくなります。
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重大な犯罪歴がある 懲役1年を超える実刑判決を受けたことがある場合や、薬物犯罪、人身売買に関わっている場合は、原則として許可されません。「人道上どうしても避けられない事情」がない限り、非常に厳しい判断が下されます。
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不法滞在の期間が長すぎる 「長く住んでいる」ことはプラスにもなりますが、同時に「それだけ長く日本の法律を無視し続けていた」というマイナスの評価にも繋がります。
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過去に強制送還されたことがある 過去にも同じような違反を繰り返している場合は、反省の色がないとみなされます。
4. 手続きの流れと注意点
新しい制度では、収容されている、あるいは監理措置(収容されずに外で生活しながら手続きを待つ状態)を受けている外国人が申請を行います。
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申請書の作成と資料集め なぜ日本に残らなければならないのかを証明する資料(家族関係の証明書、診断書、子供の学校の通知表、知人からの嘆願書など)を準備します。
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入国審査官による調査 提出された資料だけでなく、生活状況や素行などが細かく調べられます。
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法務大臣による裁決 最終的に、諸般の事情を総合的に判断して、許可か不許可が決まります。
5. 専門家が教える「知っておくべきこと」
在留特別許可は、一度不許可になると再びチャンスを得るのは非常に困難です。そのため、最初から自分の状況を正確に把握し、説得力のある説明をする必要があります。
よく「とりあえず出頭すればなんとかなる」と考える方がいますが、準備なしで行くのは危険です。今の自分の状況が、ガイドラインの「積極要素」にどれだけ当てはまり、「消極要素」をどう補えるかを冷静に分析しましょう。
読者の心を掴む!よくある質問 Q&A
Q1:オーバーステイになってから10年以上経っています。長く住んでいれば必ず許可されますか? A1: 残念ながら、期間が長いだけで「必ず」許可されるわけではありません。むしろ最近の基準では、長期間の不法滞在は「日本の秩序を乱した」として厳しく評価される傾向にあります。ただし、その10年の間に日本人のパートナーと結婚した、子供が日本の学校に通っている、地域でボランティアをしているといった「日本に定着せざるを得ない具体的な事情」があれば、許可の可能性は十分にあります。
Q2:病気で治療中ですが、母国では十分な治療が受けられません。これは理由になりますか?
A2: はい、非常に重要な検討要素になります。日本での治療を中断すると命に関わるような重大な疾患がある場合、「人道的配慮」として在留が認められることがあります。ただし、医師による診断書や、母国の医療事情に関する客観的なデータなど、専門的な立証が必要になります。
Q3:自分から入管に出頭したら、そのまま捕まって(収容されて)帰国させられませんか?
A3: 不安ですよね。確かに収容のリスクはゼロではありません。しかし、現在は「監理措置制度」という、親族や支援者の監督のもとで収容されずに手続きを進める仕組みも整っています。逃亡の恐れがないことをしっかり証明できれば、外で生活しながら在留特別許可の結果を待つことも可能です。まずは専門家に相談し、出頭のタイミングや準備を整えることを強くお勧めします。
まとめ
在留特別許可は、あなたの人生を左右する大きな決断です。法律が改正され、自ら申請できるようになった今、正しい知識を持って行動することが大切です。
ひとりで悩まずにVISA専門の行政書士に早めに相談しましょう。