すでにご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、日本の外国人政策において非常に大きな転換期を迎えることとなりました。政府は先日の閣議において、外国人向けの査証(ビザ)発給に関わる手数料や、日本国内での在留手続きに伴う手数料を改定する政令を正式に決定しました。
今回の法改正は、日本への渡航を計画している外国人だけでなく、国内で働く外国人住民の皆様、そして彼らを雇い入れている企業様にとっても、コスト面やスケジュール面でダイレクトに影響を与える重大なニュースです。
本記事では、この手数料改定の具体的な中身や背景、そして今後私たちがどのような点に注意して手続きを進めるべきなのか、専門家の視点から詳しく解説します。
1. 2026年7月よりスタート!ビザ(査証)発給手数料の大幅改定とその背景
今回の発表における最大のポイントは、外国人向けのビザ発行手数料が「現行の5倍」という大幅な値上げに踏み切られた点です。
具体的には、日本へ1回のみ入国できる「一次有効査証(シングルビザ)」の手数料が、これまでの3,000円から15,000円へと引き上げられます。また、有効期間内であれば何度でも日本に出入国ができる「数次有効査証(マルチプルビザ)」についても、現行の6,000円から一気に30,000円へと改定されることが決まりました。この新料金は、2026年7月1日以降の申請分から全面的に適用されることになります。
実は、日本における外国人向けビザの手数料改定は、1978年(昭和53年)以来、実に「48年ぶり」の出来事です。半世紀近くもの間、日本のビザ手数料は一度も変更されることなく据え置かれてきました。
そのため、諸外国と比較した際、日本の手数料は驚くほど低い水準にありました。例えば、アメリカのビザ申請手数料は185ドル(約29,000円)、イギリスは127ポンド(約26,000円)、欧州(シェンゲンビザ)でも90ユーロ(約16,000円)程度が一般的であり、日本の3,000円〜6,000円という設定は世界的に見ても「格安」だったのです。
近年、世界的な物価上昇や大幅な為替相場の変動が続いており、ビザの発行や審査に関わる行政経費も年々膨らんでいました。政府はこうした経済実態への対応と、主要先進国とのバランスを考慮した結果、今回の適正価格への見直しを決定したと説明しています。今回の改定により、政府は2026年度において1,000億円を超える増収を見込んでおり、これらの財源は今後の入国管理体制の強化や、より円滑な審査プロセスの構築に充てられることが期待されています。
外務省の担当大臣も記者会見において、「物価動向や諸外国の実態を踏まえた適切な水準への見直しであり、観光やビジネスといったインバウンド(訪日客)の動向に対して、即座にネガティブな影響を及ぼす性質のものではない」との見解を示しています。
2. 知っておきたい「査証(ビザ)」と「在留資格」の違い
ここで、実務上で非常に多くの方が混同しやすい「査証(ビザ)」と「在留資格」の違いについて、専門家として改めて整理しておきます。この違いを正しく理解していないと、今回の値上げが自分にどう関係してくるのかを正確に把握することができません。
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査証(ビザ)とは? 海外にある日本の大使館や領事館(外務省の管轄)が発行するもので、いわば「日本に入国しても差し支えない」という推薦状のようなものです。パスポートに貼り付けられるシールなどがこれに該当します。今回の「3,000円から15,000円への値上げ」といった報道の主たる対象は、この海外で申請するビザの手数料です。
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在留資格とは? 外国人が日本に上陸し、滞在して活動(就労や留学、結婚生活など)を行うために必要な「法的資格」のことです。こちらは日本国内の出入国在留管理局(入管、法務省の管轄)が管理しており、許可されると「在留カード」が交付されます。
今回の法改正にまつわる政府の方針では、海外で取得する「ビザの発行手数料」だけでなく、日本国内の入管で行う「在留資格の変更許可申請」や「在留期間の更新許可申請」に伴う手数料についても、同様に引き上げる方針が固まっています。これらは近く策定される総合的な経済対策の中に盛り込まれ、順次改定が進められる見通しです。
3. 日本国内での手続き(在留資格変更・更新)への影響と現行料金
日本にすでに滞在している留学生が就職するために在留資格を「技術・人文知識・国際業務」などに変更する場合(在留資格変更許可申請)や、現在働いている外国人が滞在期間を延ばす場合(在留期間更新許可申請)の手数料も、今後の動きに注意が必要です。
現在、出入国在留管理庁における主な手続きの手数料(現行料金)は以下の通りとなっています。
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在留資格変更許可:4,000円
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在留期間更新許可:4,000円
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永住許可:8,000円
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再入国許可:3,000円(1回限り)/ 6,000円(数次)
これらの国内手続きの手数料についても、これまでの物価や人件費の上昇、行政システムの維持管理コストを反映させる形で、今後引き上げられる方向で調整が進んでいます。具体的な改定時期や新料金の詳細については、出入国在留管理庁などの公的機関からの正式な告示を待つ必要がありますが、海外でのビザ手数料が5倍になった流れを考慮すると、国内の手続き費用もある程度の負担増を覚悟しておくべきでしょう。
4. 外国人住民や雇用企業が今すぐ取るべき実務的な対策
手数料が大幅に高くなるということは、個人にとっても企業にとってもコスト負担が増えることを意味します。特に、多くの海外人材を抱える企業や、これから大規模な採用を予定している事業者様は、以下のポイントを意識して対策を講じてください。
① 申請スケジュールの前倒し(駆け込み申請への備え)
海外からの呼び寄せ(ビザ申請)を検討している場合、可能であれば2026年6月30日までに現地の大使館や領事館、あるいは代理申請機関への申請を完了できるよう、スケジュールを前倒しで進めるのが賢明です。 ただし、手数料値上げ直前の6月下旬は、世界各地の日本大使館で「駆け込み申請」が急増し、窓口が非常に混雑することが予想されます。審査期間が通常よりも長くかかってしまうリスクもあるため、書類の準備は1日でも早くスタートさせましょう。
② 費用負担に関する社内ルールの明確化
在留資格の変更や更新にかかる費用について、「会社が負担するのか、それとも本人が自己負担するのか」という問題は、実務上非常によくトラブルに発展するポイントです。 法的な規定では、入管に支払う手数料(収入印紙代)をどちらが支払うべきかという明確な義務付けはありません。しかし、優秀な人材の離職を防ぎ、良好な労使関係を維持するためには、あらかじめ就業規則や雇用契約書において「在留手続きに関わる手数料や行政書士への報酬は会社が全額(または一部)負担する」といったルールを明記し、社内で統一しておくことが極めて重要です。負担額が大きくなる今だからこそ、ルールの再確認を行ってください。
5. 【これ知りたかった!】ビザ手数料改定に関するQ&A
Q1. 7月1日の改定日をまたぐ場合、古い料金と新しい料金のどちらが適用されますか?
A1. 判断の基準は「結果が出た日」ではなく、あくまでも「申請が受理された日」となります。 例えば、2026年6月29日に海外の日本大使館や領事館でビザの申請が正式に受理された場合、実際の審査が行われてビザがパスポートに発給されるのが7月5日になったとしても、適用されるのは「改定前の旧料金(一次ビザなら3,000円)」です。逆に、7月1日以降に窓口に書類を提出した場合は、一律で新料金(15,000円)が適用されます。郵送申請や代理申請機関を通す場合は、窓口への「到達日・受理日」がいつになるかを必ず事前に確認してください。
Q2. ビザの申請をしたものの、審査の結果「不許可(発給拒否)」になってしまった場合、支払った新手数料(15,000円など)は返金されますか?
A2. 原則として、ビザが発給されなかった場合、外務省に支払うべき「査証発給手数料」自体は徴収されません。 外務省の基本的なルールでは、手数料はビザが「無事に発給された際」にパスポートを受け取るタイミング、または発給決定時に支払う仕組み(あるいは事前に支払って不許可なら戻る仕組み)となっています。そのため、国に納める手数料そのもので大損することはありません。ただし、注意が必要なのは、現地の大使館が指定している「代理申請センター」などを利用して申請した場合です。これらの民間センターに支払う「取扱手数料(事務手数料)」は、審査結果に関わらず返金されないのが一般的ですので、その点は誤解のないよう注意しましょう。
Q3. 日本国内で行う在留資格の更新や変更の手数料は、いつ、どのように支払うのですか?
A3. 国内の出入国在留管理局(入管)での手続きの場合、手数料は申請時ではなく「許可が出た後、新しい在留カードを受け取る時」に支払います。 支払い方法は現金ではなく、金額分の「収入印紙」を購入し、それを「手数料納付書」という専用の紙に貼り付けて入管の窓口に提出する形をとります。万が一、申請が「不許可」になってしまった場合には、新しい在留カードが交付されないため、この手数料(4,000円など)を支払う必要はありません。このように、日本の入管手続きは「成功報酬型」のような手数料の仕組みになっています。
6. まとめと専門家からのアドバイス
今回の48年ぶりとなるビザ・在留資格関連の手数料改定は、これまでの「日本のビザは安くて当たり前」という常識を大きく覆すものとなりました。
金額が5倍になるということは、海外からの渡航者や、日本で多くの外国人スタッフを雇用する企業にとって決して小さくない財務的インパクトを与えます。しかし見方を変えれば、主要先進国並みの適正な手数料を徴収することで、入国審査官の増員やシステムのデジタル化が進み、これまで「遅い」「結果が出るまで不安」と言われ続けてきた入管審査のスピードが格段に向上する可能性を秘めています。
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